夜の銀座で、身売りされた話 -1

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イケメンは信用できないと思ったTくんと、副業の話で少し触れた、銀座の高級クラブでアルバイトをしていた時の話だ。

数年前、私は会社勤めの傍、夜の銀座に通っていた。

理由は単純、銀座が好きだから。

人生一度は夜の銀座で働く経験をしたいと思っていた。

本当は、色々と自由が利く学生の頃にできたら良かったのだが、水商売の素人が興味本位で覗くにはハードルが高く、願望はあれど行動に移せないままだった。

ある時、知人の姑が銀座でママをやっていると聞いた。

私は彼女に頭を下げて、銀座で働きたいからママを紹介してほしい!と頼んだ。

「うちのお義母さん、結構強烈だよ~!大丈夫かな!聞いてみるね!」

その後、意外にもすんなりと話が進み、私は2日後に面接に行くことにした。


そこのクラブは、古き良き昭和の風情が漂う、こぢんまりとした店だった。

臙脂色のベルベット生地のソファに、ヨーロッパ調の飾り棚。

壁付けのランプから漏れる柔らかな光源は、私を懐かしい気分にさせた。

「いらっしゃ〜い」

にゅっとカウンターから現れたのは、ちぃさなおばあちゃんだった。

(こ、こんにちは。こちらのお店のママとのお約束で面接に来た者です。)

「あぁ、ママはもうすぐ着替えを済ませて来ると思うよ。ちょっと座っていなさいな。」

まるでトトロに出てくるサツキとメイのおばあちゃんの様な彼女。

聞くと、お酒を作って出しているのは彼女のようだった。

「おはよーございまぁす。」

遅れて、女性が入ってきた。

この人がママ?と思ったら、私と同じようにバイトをしている女性だった。

驚いた事に、彼女は浴衣だった。

夏場だったので、浴衣自体には全く驚かないのだが…(銀座のクラブなら、夏着物でもキメてほしいな…)と思った。

しかも、体格が割とがっしりとしていて170cmくらいはあるだろうか。

浴衣の裾が足りていないのか、スネまで丸見え。

着崩れた襟に、半端にまとめたうなじの後れ毛は、だらしなく見えた。

茶道の稽古で着付けを仕込まれてる身としては、着物ポリス(着物の着方や着崩れをお節介に手直しするオバサン達)並みに、手を出したくてウズウズした。

彼女とは、簡単に自己紹介をした後、お互い店の対角の席に座り会話は続かなかった。

「はぁぁぁああ!疲れたぁ~」

続けて入って来た人がいた。

私は、この人がママだとすぐに気づいた。

とっっても失礼な描写だが…華奢な体格に茶色い巻き髪、ピンクのドレスは、林家ペー?(嫁の方)にしか見えなかった。

「あー!アンタねぇ?面接に来たのって。」

(こんにちは!突然のお願いだったにも関わらず、今日はありがとうございます!)

「ふぅん、銀座で働きたいなんてねぇ。私、知り合いと一緒に働くの、嫌なのよね~。」

(あ…はぁ。)

挨拶もままらならいうちに、こんなことを言われた。

(じゃぁなぜ今日、面談が許されたんだ?)と疑問に思いながら、ママとカウンターのおばあちゃんの話を聞いていた。

おばあちゃんは、若い子が多いと良いわよ!と前向きに考えてくれたのだが、ママがアレコレと反論している。

トトロのおばあちゃんに、着崩れた浴衣の巨漢女性と、林家ペーに囲まれながら、(私はどうすべきだろうか…)と様子を伺っていた。

「もういい!アンタ!付いてきな!」

話はまとまっていないようだったが、とりあえず言われるが儘に彼女を追い、店を出て7丁目の通りを歩いた。

足早の彼女を追いかけながら(私が憧れた夜の銀座はこのご時世、幻想だったのかもしれない…)と、もう半ばどうでもよくなってきていた。

すると彼女が大きく手を振った。

「ちょっとー!そこの黒服!この子、そっちの店で引き取ってくんない?」

(えええぇぇぇぇ!)

な、なんと、私は別の店の黒服(お酒のサーブや客引きをする男性)に身売りされたのだ!

突如声をかけられた黒服は、私達に近づいてきた。

上から下まで一通り私の風貌を品定めするように眺め、「へぇ、君が銀座で働きたいの?素人でしょ?」と言った。

「そうなのぉ~けどこの子、どーーーーしても銀座で働きたいみたいよぉ~。」

私が口を挟む間も無く、ママは応えた。

「ふーん。うちの店、そこなんだけど、ちょっと覗いてみる?」

なんだかすごい展開だと思いつつ、私は憧れてていた銀座が幻想でないことを自分の目で確かめたかった。

もし、危険そうなら断ればいい…と腹をくくり、その黒服について行った。

(つづく)夜の銀座で、身売りされた話 -2

(追記)

林家ペーパー子が、正式名称なんですね笑 →オフィシャルブログ