私は、彼と結婚した。
付き合って、1年半ほど経った時だった。
(え、描写を割愛しすぎ?)
前話→ 20人の男たち(18/20)イケメンは信用できないと思ったTくん -5
付き合っていた頃から、私達はお互い自由な関係でやっていた。
その日どこで何をしているかは報告し合っていたが、くだらない痴話喧嘩でよく耳にするような、「その飲み会に男(女)はいるの?」「今どこにいるの?(連絡ないんだけど)」といった拘束はなく、お互いの時間はそれぞれ尊重していた。
彼はちょうど、ベンチャー企業での仕事がひと段落し、結婚もするということで広告代理店に転職した。
私は、友人と2人暮らしに幕を閉じ、結婚に備えて郊外に引っ越した頃だった。
もともと、結婚した後どこに住むか?という話になった時に、祖母の使っていた郊外の一軒家なら、子供ができても不便しないし、都内に通うにはまぁ許容範囲の距離で、賃貸にお金を払うならそのお金を将来のために積立てようという話だった。
しかし彼は、結婚後、独身時代に借りていたワンルームの契約が満期になるまでそちらに住んでから郊外に越すと言った。
確かに、広告代理店の営業は激務で、転職間も無く慣れない仕事だろうから、数ヶ月間くらい都内から通う方が彼も無理がないだろうと思い、私は承諾した。
今となっては、この新婚生活の始まり方が悪かったと思っている。
結婚して数ヶ月した頃に、彼は郊外に引っ越してきた。
それまでは、平日にたまに、あとは土日に郊外の家に帰ってくるペースだった。
私が都内のワンルームに行くことも、ごくごくたまにあったが…男らしく豪快にとっ散らかった部屋は苦手だった。
その頃になって私は、今の仕事に転職した。
5年ほど働いた前職を去り、全く業種の違う経営コンサルティングの仕事だ。
私のこれまでのキャリア、スキルでは厳しい環境になる事は承知の上で、新しい知識や経験に夢中だった。
彼が郊外の家に合流して数ヶ月ほど経って、平日に帰ってこないことが増えた。
まぁ、広告代理店の営業だし、接待やらなんやらで飲んでいたらこんな時間に…とか、案件が炎上して対応するから帰れないだ、連絡が来ていた。
私も前職が似たような職種だったので、代理店アルアルだと思って許容していたのだが、こちらも慣れない仕事でテンヤワンヤしながらも、色々とマネジメントして郊外から通っているのに、良いご身分だなと思うようになってきた。
人にこの話をすると大概、都内に泊めてくれる女がいたな!と返されるのだが、ベンチャーの時の家での仕事ぶりや彼の性格と性質を考えると、そんなゆくゆく面倒になる事をするよりは、本人が言うように会社に寝泊まりしていたんだと思う。
これは、彼の名誉のためにも、私は彼の証言を信じようと思う。
今の仕事で郊外から通う事がそんなに大変なら、住む場所を変えようかという話もしたが、「大丈夫だよ!」と、帰ってこないくせに一体何が大丈夫なのかわからない返事で、そのままこの暮らしが続いていった。
私の仏の顔が鬼になり始めたのは、結婚して1年数ヶ月経った頃だった。
2人の生活のはずなのに、全く成立していない事が不満だった。
結局、彼がいつ帰ってくるのか、いつ出かけるのか全くわからないため、話をしたり一緒に行動する予定がなかなかたてられず、常に私が予測不能な彼の動きに合わせて調整する側になっていった。
性格的にも自由奔放な人で、ある連休に都内の私の実家に行く予定だったのだが、出発する直前になって「今日って、僕も行く必要あるんだっけ?」と聞かれた。
私は、その質問に困惑した。
(久々に実家に顔をだそうというだけの話だが…僕がいる必要があるかと聞かれたら、絶対ではないのか?いや…)
せっかく予定を合わせたのに、何か予定があったのか聞いたら「なんか本を読みたくなっちゃって!」と言われて私はブチ切れた。
結局「ごめん!僕も行く!」と言われたが、私は彼を置いて1人で車を出して実家に帰った。
この頃から、なんだかこちらばかりが合わせることが馬鹿らしく感じてきた。
7月。
私は、書道でお世話になっている師匠の個展を手伝うことになった。
上野の森美術館を1ヶ月借りての大掛かりな個展だった。
先生の御歳を考えると、この先なかなか実現できないかもしれない大規模なもので、弟子総出で準備段取りを手伝った。
7月の土日はその手伝いで日中拘束される旨を彼に伝えた。
(1ヶ月間も、夫婦の時間が減って、土日にその仕事に時間を割くなんて彼はどう思うだろうか…)そう思って相談をしたら、彼は承諾してくれた。
しかし、実際に7月になってみてまた私を苛立たせる事態になった。
だから事前に相談したのに、7月のある連休の朝になって「この連休も個展に行くの?」と聞かれた。
(事前にその旨は相談したはずだけど…)と伝えたら、「せっかくの連休、海にドライブでも行きたかったな~。」と言われて私はブチ切れた。
そもそも7月に連休がある事は事前にわかっているのに、なぜ当日の朝に言うのだろうか。
ドライブしたいって言うけど、彼はマニュアル車を運転できないから車を出すのは常に私、彼は助手席で寝ている。
車で出かける時にかかる費用(ETCやらガソリン代やら)いつも全部こっちが出してるんだけど。
(いったいどんなご身分でドライブ行きたかった〜と言っているのだろうか…)と思って、呆れながら個展に出かけた。
この2つの話でわかると思うが、総じて彼は日頃からあまり物事を長期的思考で考えておらず、その時の気分で自由奔放に行動する人なのだ。
ただ、これらの話は単なる事象の表層であり、言ってしまえば痴話喧嘩の域。
最終的な私の不満はお金の問題と彼の激昂癖だった。